味噌を造って55年。目標の味を目指し続けた現代の名工。
醸すこと、それは感性を磨くこと。
目標の味を求め続けて。

弊社工場長雲田實は味噌業界に数人しか存在しない「現代の名工」の1人でした。雲田は2014年に逝去いたしました。私たちは雲田がつくりあげたその味を、現代の技術で守り続けます。
以下は、長野技術五輪・アビリンピック長野大会、長野県公式マガジンWAZACAN「ワザキャン」に掲載された記事です。
感性を磨き、養わねば、到底目標に達することはできない。

本当の米麹とは、ひとつぶひとつぶが洗う前の「米そのものの形」を維持した麹なのだそう。「内軟外硬」といって、内側はふっくら、外側はパリッと蒸し上げることで、菌を最大限に生かすことができる。
「酒造りと味噌造り。どちらも難しいが、栄養分豊富な大豆を原料とする味噌造りの方が難しい」と、醸造のすべてに携わってきた雲田さんは言う。その難しさとは環境によって変化する農産物と対峙する難しさである。
生物相手の仕事には、すべての工程を「したつもり」の「つもり仕事」で済まさず妥協をしないこと、そして何より原料がどう変化するかといった経過への想像力・観察力が欠かせない。
「技術を積み重ねるだけでは、到底目標に達することはできない」そう気づいたのは40代半ばの頃。数値で表せるような画一的なものではない醸造の仕事は、どんなに経験を重ねても今一歩というところまでしかたどり着けないと気づいたのだという。
「感性や哲学は人それぞれみんな本来持っているはず。だから、それを養うことが「醸す」ということでは大事な要素です。技術的なものを組み立てた上に更に乗せていくというのは感性しかないのかな、と」
雲田さんは、経験の上に感性を積み重ねて今、やっとすこし目標に近づいた気がするのだそうだ。

毎年、山に登る。早春の根明けに春を感じ、紅葉の透明感に感嘆する。目にするものすべてになぜ?どうして?と疑問を投げかけ、自然の摂理を分析し自分なりに理解する。そうして、その全てを匠の情熱とし、目標とする味噌造りに捧げる。
「三千年以上の味噌の歴史の中で、農耕民族が最も好むような味噌を造りたい」これが匠の目標だ。生まれ持って農耕民族特有の繊細な舌を持っている日本人に向けて、なるべく多くの人がいいなあと思うような味噌を造りたい、と匠は語る。
自宅でも味噌を仕込んでいるから、と昨年仕込んだ味噌を頂戴することになった。一口大の温かいご飯にのせて運ばれてきた濃い赤銅色をした味噌からは、きれいな澄んだ香りがする。味噌の香りがふわりと香るシンプルな食べ方だ。深みのある照り、冴え、澄んだ香り。熟成期間を経た本当の味噌は真っすぐな表情をしていた。今年は、香りを重視した味噌を目指して自分なりの手を加えている。
(上)上手い味噌を造るには色を濃く、しっかり熟成させてあげなければいいものにならない。 だから、うちは頑としてあの色しか出さないんです。とよしのやの味噌を語る。
(下)醸造に関わる人の手の平は美しい。
「醸造は人格なり」

栄養バランスを別にすれば、と前置きして話してくれた匠流・味噌の一番おいしい食べ方は、「あったかいご飯を器にもって、お湯をしゃーっとかけてその一角に味噌をことっと置いて。溶かしこみながら食べること」
22歳でよしのやに入社。試験管を見つめて培養をすることから長い醸造の日々が始まった。曰く「ふつうの就職だった」と当時の心境を振り返る。醸造をやろう!と思って始めた訳ではなく、たまたま化学的なことが好きだった。仕事があり、働く中でこれならやっていけると感じたのだそう。そうして味噌を造り続けて55年。雲田さんに味噌造り、醸造という仕事の魅力を訊いた。
「味噌造りは数値ですべてを把握できる仕事では無い分、無限大の可能性と楽しみがある仕事」
「万の造り方があり、組立て方によってその数の手法がある。それだけのことを見つけ出せる仕事というのは幸せな仕事」
自分だけのたったひとつを見つけられる仕事、それが味噌造りであり、醸造の仕事なのだそうだ。
よしのやに併設するレストランさくらでお昼ご飯を頂いた。山茸の味噌汁を口にすると味噌の香りが鼻まですうっと抜ける。後味のすっきりした潔い味噌は、飽きのこない上品な味だ。
「醸造は人格なり」という言葉が昔からあるという。味噌や酒には、その人の性格がその通りに出てくるということなのだそうだ。味がすべてを証明しているということなのだろう。確かに、匠の味噌は今もなお目標の味を求め続ける純粋で真っすぐな人柄そのものであった。
醸造:味噌作りの仕事とは?

豆を煮てつぶし、麹と塩を混ぜて仕込むというシンプルな工程と素材で構成される味噌。
その味噌造りの中で一番重要な工程は、最適な条件で種麹を立ち上げること。温度、酸素濃度、炭酸ガス濃度、湿度が一定条件を満たせば種麹は立ち上がりが早いが、そのためには丁寧な仕事の積み重ねと、妥協せずに原料の変化に向き合う観察力、想像力が欠かせない。
数値で測れない微生物の世界ではあるが、常に記録を欠かさずに研究する必要がある。何より微生物の微妙な変化を感じ取れる感覚を磨きあげ、自分の中にためこんでいくことが大切なこと。言うならば味噌造りは、「微生物と対話する仕事」なのである。
清酒西之門・雲山

最新鋭の工場の清潔な環境で酵母・麹菌など微生物を活発に働かせ、米を溶かし、完全醗酵させ、旨み・香りがある酒を造っています。
近年、品評会で連続して入賞できるようになりましたが、出品酒も特別なことをしているわけではなく、市販品と同じ設備・方法で造っており、どの商品も出品酒と同様、高品質なものであることが自慢です。

よしのや 善光寺みそ
良質の国産大豆・国産米を100%使用。みそは米麹を作り、大豆を煮て、それを塩と混合し、醗酵させた食品です。米麹作りには清酒製造の技術を生かしています。
大豆も硬からず、柔らかすぎず、ほどよい硬さに煮るため、数十秒単位で気を配ります。温度経過を精密にコントロールし、醗酵させます。
一つ一つの工程をおろそかにせず、麹菌・乳酸菌・酵母が働きやすい環境を整えているため、醗酵による香り・旨み・まろやかさが際だちます。
「よしのや善光寺みそ」を見る